評価を上げる文章の書き方 ~ 齋藤孝著『誰も教えてくれない 人を動かす文章術』を読む
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- 誰も教えてくれない人を動かす文章術 (講談社現代新書)
- 著者 齋藤孝
文章が上手くなりたいと考えている人はたくさんいて、その証拠に、書店には文章術と名のつく本が何冊も並んでいます。
これは、先日の記事「抜き書きする読み方 ~ 佐藤優著『読書の技法』を読む」で述べた、“読書術”と同様の光景です。
文章は日々読み書きするもので、上手いに越したことはありません。
では、文章が上手いとは、どういうことなのでしょうか?
「文章が上手い」には、大きく分けて2種類あると僕は考えます。
ひとつは、小説のような美文・名文です。
基本的に正しい日本語の文法で書かれ、教科書に引用されるような文章です。
ただ、美しい文章だからといって、必ずしも読みやすいわけではありません。
もうひとつは、実用的に読ませる文章です。
キャッチコピーや実用書、新聞記事などに用いられ、的確に意図を伝えられる文章です。
上手ければ上手いほど、ぐいぐい読み進ませる力をもっています。
今回取り上げる『誰も教えてくれない 人を動かす文章術』では、後者の文章について解説しています。
特に、文章がうまくなりたいビジネスマンや学生にとっての良書です。
ビジネスマンや学生ではなくとも、普段からメールやブログをよく利用する人にとっても、得られるものは多い内容になっています。
◯ まずは“書くこと”から始める
「書く生活」と「書かない生活」とでは、暮らし方、ものの見方に差が出てくるのです。
著者である齋藤孝氏は、本作の冒頭でこう述べます。
「書く生活」というのは、つまり、「アウトプットを習慣づける」ということだと言い換えられます。
これはとても大事なことで、頭の中で考えたり、おしゃべりするだけで終わらせるよりも、文章にして書くことを習慣づけると、ものごとを認識する力が備わります。
「書く生活」と「書かない生活」とでは、この「認識力」に圧倒的に差がでます。
例えば、受動的に読む読書は、よほど強烈なインパクトなりエピソードが伴わないかぎり、一週間もすれば記憶が薄れてきます。
「書く = アウトプットする」ことを前提として読書に取り組むと、認識力が格段にアップするので記憶に定着します。
これは佐藤優氏が『読書の技法』の中で述べていることにも符合します。
ここでもうひとつ大切なことを加えると、「人に読まれることを意識して書く」ことです。
自分だけが読む日記のような文章では、あまり効果が期待できません。
その理由は、日記だと「面白かった」や「悲しかった」などのように、「凡庸」な感想で終わらせてしまいがちだからです。
著者の場合、大学の講義で、「エッセイ」を書くことを進めているようです。
この「エッセイ」は、「ブログ」に置き換えることもできると考えます。
◯ 重視するのは文章の書き方ではなく「内容」
私が重視するのは、文章の書き方ではなく、その「内容」のほうです。「内容」とはすなわち、物事をどう捉えたか、発見は何であるか、ということに尽きます。
どれだけ美しい日本語で文章を書いたとしても、読み進めてもらえなければ意味がありません。
言い換えると、「内容」さえ秀でていれば、文章が上手くなくても読んでもらえるということです。
同じ「内容」でも、書く人が違えば文章も違います。
まったく同じ文章になることはないでしょう。
その「内容」をいかに伝えるかが文章の書き方であり、上手い下手につながります。
要するに、まず読まれる「内容」のレベルを上げて、それから文章の質を上げることが大事です。
文章においては、凡庸さは恥です。
著書では概ね優しく諭すように語りかける文体の齋藤孝氏が、ここまで強く断定するその言葉は重い。
読者はよほど肝に銘じるべしだと感じます。
◯ 最初に必要な作業は、書くための「ネタ出し」
その知識、ネタが外にあるもの、他人のものであっても、いったん自分で文章にまとめることで、自分で活用できるネタにしてしまうことができるのです。さらにそこに、あなた自身の知識や経験を絡めていくと、他人の論だったものが換骨奪胎されて、自分自身のオリジナルなネタになってしまうのです。これこそが能動的知識です。
これは文章を書くうえでとても重要なことです。
完全に混じりけのないオリジナルな発想は皆無といえます。
その一方で、自分の人生経験や学習体験は、完全に唯一のものであるはずです。
つまり、元々存在するネタや話題に、自分の知識や経験を絡めるだけで、オリジナルなネタになるということです。
文章のみならず、アイデア出しでも同様のことがいえます。
このことを踏まえたうえで、まずは仕入れたネタをどんどんまとめることです。
◯ 独自の視点の見つけ方
本作の中で、著者は2度「独自の視点の見つけ方」という小見出しをつけています。
おそらく意図的であろうと思いますが、それだけ本作で訴えたいことだということです。
具体的には下記のように述べています。
独自の視点の見つけ方は二通りあります。「異質であると思われる二つのものの間にある共通点を見つけること」と、「同質であると思われている複数のものの間に差異を見つけること」です。
自分独自の視点をみつけるのには、こんな方法もあります。本の中から「引用したい文」または「好きな場面」のベストスリーを選び、そのベストスリーについて「なぜこの文、この場面が好きなのか」と、コメントをつけていく方法です。選んだ時点で何かしらの心の動きがあったはずです。その心の動きを言葉にするのがコメントです。自分でつけたコメントには、あなたの視点が含まれているはずです。
「異質であると思われる二つのものの間にある共通点を見つけること」と、「同質であると思われている複数のものの間に差異を見つけること」は、批評ではよく使われる方法です。
ここでは、その人だけの人生経験や、映画鑑賞・読書体験が活きてきます。
もちろん、知識や経験が膨大であればあるほど、独自の視点が見つけやすくなります。
が、今の自分が有している知識と経験だけでも、十分に独自の視点をもつことができるはずです。
また、「引用したい文」または「好きな場面」のベストスリーを選んでコメントをつけるというのは、とても建設的な行為です。
このことは佐藤優氏の『読書の技法』とも通じます。
◯ 「個性」とはある種の「無理」や「歪み」
「ネタ」をまとめて、独自の視点を見つけられたら、いよいよ文章を書いていきます。
ここでは、文章を書くにあたって意識すべきことをまとめます。
「個性」というのは、ある種の「無理」や「歪み」であると私は思います。
「ネタ」と「独自の視点」を絡めてみると、おそらく無理が生じてくると思います。
元々ある「ネタ」に、自分の経験や知識を無理やりあてはめるからです。
しかしながら、著者は、その「無理」や「歪み」が面白いのだと語ります。
分かりやすく食べ物で例えてみると、普通なら考えないような食べ合わせは、美味しいかどうかにかかわらず、人の興味を引きます。
「チョコレートを焼き海苔で巻いて食べると美味しい」と言われたら、多くの人はその味を想像しながら好奇心をそそられるのではないでしょうか。
文章もそれと同じことが言えます。
本作の中では、映画『アバター』と『徒然草』を引き合いに出していますが、この2つには共通点があると言われたら、少なくとも僕なら興味を惹かれます。
◯ 「上から目線」と「生意気さ」
著者は、読書感想文を例にあげて、「上から目線」と「生意気さ」が大切だと主張します。
もちろん、うわべや表現的な「上から目線」と「生意気さ」ではありません。
読んだ本の内容に対する、自分がとるべきスタンスのことを指しています。
簡単にまとめてしまうと、「とんがった自分を惜しみなく出しなさい」ということだろうと解釈します。
会話での発言では強く自己主張する人でも、文章を書かせると、おとなしくなってしまう例が少なくありません。
なぜおとなしくなってしまうのでしょうか?
例えば読書感想でいうと、本が主体になってしまっているからです。
その本の内容に対して、「こう感じた」とか「共感できた」と書いてしまいがちだからです。
そうではなく、文章を書く時こそ、自分を主体にするべきなのです。
極端にいうと、部下や後輩の意見を聞いているようなスタンスでいいということです。
「オレも同じ意見だ」とか「いいこと言うね」とか、そんな感じです。
ただ、注意しなければいけないのは、考えなくてもいいということではありません。
まず自分の知識や経験に基づいた意見があって、それに読んだ本を照らし合わせるということです。
◯ 「書く」ために「読む」
書く力の基礎として、「読む力」が必要です。文章を読む際に、次の三つのポイントに気をつけるとうまくいきます。
「この人は『これとこれが違う』ということを言いたいんだな」、「『これとこれが実は同じ』ということを言いたいんだな」、「この人は『これがどうすごいのか』、そのポイントを言っているだけなんだな」という三点です。このポイントで整理して読むと、だんだん頭がすっきりしてきます。相手の、書く人の頭になってくるようにも思われます。
「書く」習慣がついてくると、ものの見方や本の読み方が変わってきます。
具体的には、映画を観たり、本を読んだりしていると、自分のコメントを挟みたいと思うようになります。
そうすると、対象の作品に深く入っていくことができます。
映画でも小説でも評論でも、テクストを自由に読んでいいという自由を私たちは持っています。
これもとても大切な認識です。
ともすると、文章で伝えられる作者の意図にはたったひとつの正解があって、それ以外の読み方は間違っていると思われがちです。
これは、選択式のテストによる弊害です。
たしかに、作者には伝えたいことがあります。
が、それをどのように読み取り、どのような意見を持つかは読み手の自由です。
◯ 自分の意見に自信をもって書く
この結びは、著者の言葉ではありません。
僕の意見です。
文章を書くとき、誰かに迎合することはありません。
自分の意見に自信をもって発信することが大切です。
ここでいう自信とは、プライドとは違います。
根拠のない自信では無意味です。
考えに考えて書いた文章に自信をもつということです。
もちろん、一度発信した言葉には責任をもたなければなりません。
とはいえ、あとになって意見をあらためてもかまいません。
その時にも、自信をもって表明することです。
以上のことを踏まえて書かれた文章は、必ず人の目に留まります。
目に留まれば、あなたの存在が意識されます。
存在が意識されれば、あなたの評価が上がります。
本作には、第三章、第四章、第五章で、ビジネス文書、学生の小論文、メールなど、具体的なノウハウについても書かれています。
そのあたりは、必要に応じて読み込むと力になるでしょう。